福岡高等裁判所 昭和26年(う)1887号 判決
苟も人に対し故意に暴行を加え、因つて人を死に致したときはたといその暴行による致死の結果が、犯人の目的としたものと異り、しかも犯人において毫も意識しなかつた客体の上に生じたときでもその暴行と致死との間に因果関係の有することが明白である以上犯人においては当然に傷害致死の罪責を負うべきものであつて、過失致死罪を以て律すべきものではない。
原判決の認定したところは、被告人は判示自宅の廊下で四男の友昭につかみかかつて同人と双方肩を掴みあつて押しあつた後、自分の右足で同人の右腿も二三回けりつけ、引続き同様同人の右腿をける考えで右足を強くけ出したところ、その瞬間、友昭が身体を左側に避けたため、その足は同人にはあたらず、友昭の右側から胴を持ち同人の反抗を制止しようとしていた被告人の妻マツエの腹部にあたつて、そこを強烈に一回けりつけたため、その暴行により同女の小腸に腸管破裂創を与え、その結果同女を急性腹膜炎で死亡するに至らしめたというのであつて、たとい目的に錯誤があつたとしても被告人の友昭に対する暴行と、マツエの死亡との間には因果関係の有することは極めて明白であるから、前段説明したところにより被告人は到底マツエに対する傷害致死の罪責を免がれ得ないものといわねばならぬ。